陽性後

妊娠検査薬で陽性を確認した私はとりあえずはクリニックに行くことにした。電話で「妊娠検査薬で陽性が出たので」と予約をとり、診察を受けた。いつのことだったか忘れたが、妊娠検査薬で陽性が出てほんの数日後だったと思う。結果は、なーんにも見えなかった。受診するのが早すぎたのだ。「また一週間後来てくださいね」と言われ、無駄に8千円も払ったとムカムカしながらもどこか浮き足立っていた。わーいわーい赤ちゃん赤ちゃん!とニヤニヤしながら帰った。ネットには子宮外妊娠や流産など、ありとあらゆる人を不安にする情報が満載だったが、そんなことが自分に起こるわけがないと思った。
一週間後、再度診察を受け、胎嚢を確認することができた。エコーを見ると、小さい黒い粒のようなものが見えた。まだ心拍が確認できなかったので、また一週間後来るように言われた。エコー写真をもらえた。診察が終わってすぐさま夫にエコー写真と一緒に「胎嚢あった!」とLINEをした。夫からは「おおー」とそれなりに喜んでるような適当な返信が来た。

一週間後、今度は心拍確認のためにクリニックへ向かった。院長先生は「うーん、まだ見えないですねえ。また来週来てください」と言った。まあまだなんだろう、来週には見えるだろう、と思った。
次の診察予定日の前の土日、私は久しぶりにフェスへ出かける予定だった。そんなに激しく動かないよう気を付けるけど、まあ万が一のこともあるしね、と思い、直前の金曜日、一応クリニックに確認しておこうと思った。クリニックに電話すると、「では念のためということもあるので今から来てください」と言われた。私はめんどくせーと思いながらもクリニックへ寄った。
もしかしたら心拍確認できるかな?と思ったが、結果は予想と違った。院長先生は「うーん、黄色信号ですねー」と言った。その言葉は今でも覚えている。「そうかー、黄色信号か。ちょっとあやしいってことなんだな。お金もったいないけどフェスはやめて安静にしとくかー」と思った。「今日も心拍確認できないので、来週もう一度来てください」と言われた。その後別途スタッフの方から説明を受けた。詳しい説明は忘れたが、私の認識とは異なり、どうやら高い確率で流産のようだった。稽留流産というらしい。「へ?うそ?ちょっと進捗が遅れてるだけで、来週には見えるんじゃないの?」と思った。私はクリニックの廊下に出て夫に電話し、「流産だって」と言った。そのあたりで私はやっと事態を理解し、泣きながらタクシーで帰った。家に帰ってからもずっとベッドで泣き続けた。

ただただ悲しかった。せっかく赤ちゃんがおなかに来たのに。ほんの1年前までは子供なんてちっとも欲しくなかったにも関わらず、ほんの数週間前まではこの世に存在すらしなくて、急に私のおなかに現れただけの存在であるにも関わらず、悲しくて仕方なかった。

私のおなかの中で人1人が死んだ。私のおなかの中には今人間の死体がある。

まだ手も足もない、ただの黒い粒だけど。

客観的に考えると大したことがないことのように思えるのに、この世の終わりのように悲しくて大泣きした。

翌週念のためもう一度診察を受け、やっぱり心拍確認できないことを確認した。その週の後半、私は夫に付き添ってもらってクリニックへ行き掻爬手術を受けた。手術は全身麻酔で何も覚えていない。手術が終わった後しばらくクリニックのベッドで休んで朦朧とした意識が回復するのを待った。

手術が終わった。私の中にいた赤ちゃんはもういない。私はまた大泣きした。夫は待合室にいるので会えない。迷惑だよなと思いつつ私はナースコールを押した。スタッフの女性が来てくれて、こらえきれなかった私は嗚咽交じりに「

 赤ちゃん、いなく、なっちゃったー」と言った。スタッフの女性も泣きそうになりながら慰めてくれた。初期の流産はお母さんのせいじゃないとか、いろいろな話をして落ち着かせてくれた。今思うとスタッフの女性に泣きつくというのはすごく恥ずかしい思い出なのだが、その時は手術の麻酔が残っていて変な状態だったのかもしれない。

またしばらくした後内診を受け、今後の予定について説明され、その日は終わった。

 

その後のことはあまり覚えていない。毎日ものすごく悲しかったような、でも仕事もあったし、会社にいる間は仕事のことだけ考えていれば良かったので、わりと普通だったようにも思う。

休日は、しばらく不妊治療のことを考えてなくて良いので、好きに過ごしていたような気がする。

多分3週間後ぐらいには立ち直って、嫌な言い方だが、流産のことは大体忘れたように思う。

だから、水子供養とかもしなかったし、流れてしまった赤ちゃんに名前をつけたりだとか、月命日に思い出すなんてもことなかった。

私は薄情なのかもしれない。

でも事実、おなかの中にいたのはほんの数週間で、心臓の音を聞くこともないままいなくなってしまったのだから、いまいち赤ちゃんができたという実感は薄かった。