強行

ところで、私たちは夏休みにニューヨーク旅行という一大イベントがあった。

まさか流産後1回の人工授精で妊娠などするわけないと思って、もう入金までしてしまった。出発までもう1ヶ月を切っている。妊娠がわかった今キャンセルすればバカにならない額のキャンセル料を払わなければならない。もちろんせっかく授かった赤ちゃんの命に比べたらお金なんてどうでもいい。でも私は前回の流産の経験から、流産する時は何をしてもしなくてもするし、逆に、流産しない時は何をしてもしなくてもしないということがわかっていた。それに、旅行期間中はちょうど妊娠6〜7週目にあたるが、その時期は妊娠に気付かない人も多いという。ということは、普段通り仕事やスポーツや旅行を楽しんでいる人だって大勢いるということだ。といったような結論を「妊娠判明後でも旅行行きました、大丈夫でした」という経験談を探して「妊娠 海外旅行 流産」などの検索ワードを使って叩き出した。

クリニックにも「海外旅行の予定があるんですけど行って大丈夫ですか?」と確認した。基本的には無理しすぎなければ大丈夫とのことだった。この時期は何しても流産する時はするし、しない時はしない、と。空港のX線検査も問題ないらしい。

そうとなればもう行くしかない。お金も振り込んだし、予定も細かく立てちゃったし、きっと今行かなければ後悔するに違いない。行って、また流産すれば「やっぱり行かなければ流産しなかったかもしれない」と後悔するのも目に見えていた。それでも、だ。夫も心配していたが前述のような理論で押し切った。

かくして私たちのニューヨーク旅行は決行された。実は心拍確認のあたりから既につわりがあったのだが(つわりについてはまた別の機会に書く)、旅行期間中はましだった。たまに起き抜けに空腹で気持ち悪いこともあったが、食べづわり対策に日本から持って行ったドライフルーツとキシリトールガムで解決した。クリニックからは無理しすぎるなと言われたが、海外旅行で無理しないはやっぱり無理だ。結果的に私たちはほぼ一日中歩き続けることになった。朝イチでカフェで朝食だの美術館だのセントラルパークだのへ行き、それから買い物、観光、ジャズライブ、ミュージカルと、文字通り朝から晩まで遊びまくった。

旅行3日目、SOHO地区を歩いている時だった。なんかお腹が張る。気のせいかもと思ったが、気のせいじゃない。それどころかお腹は張るだけでなく、生理痛のような痛みに変わってきた。これはまずい。ディーン&デルーカに未練を残しつつホテルへ帰った。夫に買ってきてもらったスープを飲んだ後はベッドで寝ていた。ベッドの中で私はまたも検索魔となり「妊娠6週 腹痛 生理痛のような 痛み 流産」などの検索ワードで調べまくり、とにかく休んで治ればOK、出血がなければOKということがわかった。やっぱり来なければ良かった…と思った。5時間ほど休むと腹痛が治ったので夕食を食べに出かけた。その次の日も起きるとお腹は痛くなかったので、無理しない程度に休み休み出かけることにした。それからずっと腹痛はなかったが不安ではあった。心のどこかで「今回もどうやらダメそうだ」と諦めていた。

帰国後、赤ちゃんの成長を診てもらうためにクリニックへ向かった。「無事でありますように」という気持ちと「どうせダメだろう」という気持ちと半々だった。結果は、心拍も変わらず確認でき、赤ちゃんも大きくなっていた。私はまた安心して診察台の上で少し泣いた。