つわり地獄

私の場合、妊娠5週頃から早くもつわりが始まった。

5週といえば、まだ心拍確認すらできていない、妊娠検査薬で陽性を見てから10日ほどしか経っていない頃である。最初はうっすらと気持ちが悪い、ぐらいの感じで始まった。いわゆる食べづわりらしく、お腹が空くと気持ちが悪い。ドライフルーツやカットフルーツを食べたりりんごジュースを飲むと気分がすっきりした。

それが、旅行から帰ってきた直後、急激にひどくなった。朝から晩まで気持ち悪い。食べても食べなくても気持ち悪い。いわゆる吐きづわりだ。実際吐くことは全部で4回程度だったが、常に「うえっ」と上がってくるような感じがする。もう地獄だった。

つわりが一番ひどい時期に私が食べれたものはスーパーやコンビニで売ってるカットフルーツ(パイナップル、りんご、みかん、メロンなど。缶詰は缶切りで缶を開ける元気がないので×)、冷凍食品の焼きおにぎり、うどん、そば。以上。

夫の食事をどうしていたかは覚えていない。別に食事を作れなくて怒られたり文句を言われることもなかったし、ネットで見かける「僕のごはんは?」と聞かれることもなかった。適当に自分で作っていたように思う。その頃夫の仕事が忙しかったのか暇だったのかも知らない。私は私の心配をする余裕しかなかった。その当時のLINEを見返しても私が一方的に気持ち悪い気持ち悪い言っているだけで、夫の食事に関するメッセージは一切見つからなかった。その頃の私は週末もずっとベッドに寝たきりで、普段なら毎週どこかしらに遊びに行きたがったので、「こりゃほんとに具合が悪そうだ」と思ったのかもしれない。妊娠前に行こうかなと思っていたイベントも、毎回楽しみにしていたルミネの10%オフも、全部行く気になれなかった。

私のつわりレベルは初期(うっすら、食べづわり)→中期(MAX、吐きづわり)→後期(治りかけ、吐きづわりだが大丈夫な時間が増える)と移行したが、中期は大体3週間で、その間は起きた瞬間気持ち悪いし、なんとか化粧をして朝食を摂った後に吐いて泣きながら「やっぱり無理〜今日も休む〜」といった塩梅だった。毎朝起きては「今日はいけるかも」と思い、出かける直前に「やっぱりだめ」になった。会社を休んで家で横になりながら「明日こそは行かなきゃ」と思ってまた次の日やっぱりだめ。これは非常にきつかった。

結果的に3週間ほどぶっ通しで会社を休むことになった。こうなると職場に事情を話さないわけにはいかない。普通は妊娠10週ぐらいな職場に報告すると思うが、私は8週で報告することになった。直接迷惑をかけてしまう必要最低限の人にだけは、実は今妊娠中でつわりがひどく出社できないということを報告した。みんな優しく、今は大事な時期だから、自分の体調優先でとにかく無理はするな、仕事は何とかするから、と言ってくれた。迷惑をかけて申し訳なかったが、非常にありがたかった。

もう私は開き直って甘えさせてもらうことにした。家にいる間、何もすることがなかった。立っていても座っていても寝ていても気分が悪いからずっとベッドに横になっていた。朝起きると空腹で気分が悪いのでカットフルーツを食べる。会社に休暇の連絡をし、別に眠いわけでもないけど横になっているといつの間にか寝てしまう。昼過ぎに目が覚めて焼きおにぎりかうどんを食べる。またベッドに横になるとまたいつの間にか寝てしまう。夕方目が覚めてしばらくすると夫が帰宅する。また焼きおにぎりかうどんを食べてベッドに横になる。今度は日中寝すぎて眠れない。一晩中起きて明け方5時ぐらいにようやく寝付く。6時過ぎに一応会社に行くため目覚ましが鳴り、体調を見てやっぱり無理と判断して会社に休暇連絡を入れる。ひたすらこの繰り返しだった。しかもこの時期ちょうど台風がやたら来ており、大げさでなく毎日台風だった。窓の外を見ても毎日どんよりと曇っていて雨がざあざあと降っており、余計に陰鬱とした気分にさせられた。

ベッドに横になりながら、毎日トツキトオカという妊娠アプリを見て今日が何週何日かを確認し、まだまだ妊娠初期を抜けられないことにうんざりした。安定期と言われる妊娠20週でなんて一生来ないように思えた。「妊娠○週 つわり」とか「つわり いつ終わる」と何度も何度も検索した。しまいには「つわり 食べても食べなくても気持ち悪い」などと調べだす始末だった。もう何が目的なのかわけがわからない。ただ自分と同じような辛い経験をした人を見つけたかったのだと思う。

こんなに妊婦然とした症状が出ているのにまだ安心できないのも辛かった。妊娠週数別の流産の確率は8-12週で34-48%、13-16週で6-9%だという。早くゼロになってくれよ…と毎日思っていた。

体重は2キロ減った。朝昼晩と一応食べていて、一日中寝ているだけなのにこんなに減るものかと思った。

つわり期間中に不妊治療クリニックから産婦人科への転院もあった。まだ流産の確率も低くないのに不妊治療クリニックを卒業するのは少し不安だった。転院先は最寄り駅のすぐ近くにある産婦人科にした。家から近いというだけの理由で決めた。産婦人科への通院はしばらくは月一回の妊婦健診のみだ。これも不安だった。

こんなに辛かったにも関わらず、不思議と「やっぱり妊娠やめたい」とは思わなかった。つわりがあるということは赤ちゃんが元気な証拠、と信じて、早くつわりが終わってくれること、赤ちゃんが元気でいてくれることだけを願っていた。

つわりの終わりは少しずつやってきた。よく「霧が晴れるように急に終わった」という話も聞くが、私の場合は1日の中で「今日はましかも」な時間が少しずつ増えていった。朝は大丈夫でも夕方になると気持ち悪くなったり、会議中は大丈夫だったり、電車の中はダメだったりと1日の中でムラがあったが、食べられるものも徐々に増えていった。後期が約1ヶ月ほど続いた後、ベタに安定期と呼ばれる妊娠16週目、つわりは完全に終わった。何を食べてもおいしくて感動した。食べ物を食べておいしいと感じるのがこんなにも素晴らしいこととは思わなかった。タガがはずれた私はありとあらゆるものを食べまくり、どんどん太っていった。